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何杯の紅茶を一緒に飲んだろう。
ささやかな幸せを大切に生きた
ふたりの日々に温かな涙があふれる。
「スノーマン」「風が吹くとき」などの名作が世界中で愛される英国の絵本作家レイモンド・ブリッグズが自身の両親の人生を描いた感動の物語。
1928年、ロンドン。楽天的で陽気な牛乳配達のアーネストは、生真面目で働き者のメイドのエセルと恋に落ち、結婚。最愛の息子の誕生、第二次世界大戦の苦難、戦後の経済発展を経て、ふたりが同じ年に世を去る1971年までを描いた傑作絵本が原作です。どんな時代にも、ありふれた日々の暮らしの中で、些細なことを笑いあえる時間を大切に生きたエセルとアーネストの姿が、これほどまでに愛おしいのは、この物語が世界中のどこにでもいた多くの父母の物語でもあるからです。
戦前、戦中そして戦後―激動の時代を懸命に生きた名もなき人々の日常生活の20世紀史。
手回し式の脱水機やブラウン管テレビ、ダイヤル式の黒電話など、日本人にも懐かしい生活の品々が、映画では丁寧に描かれています。また、英国の階級社会の色濃い1920年代から、ヒトラーの台頭、第二次大戦、ヒロシマへの原爆投下、戦後の若者文化の到来や1969年の月面着陸など、エセルとアーネストの目を通して語られる20世紀の生活史であることも見どころです。
絵本が動き出したかのような温かな質感の手描きアニメーション。
英国を代表する名優たちと、ポール・マッカートニーの書き下ろしエンディング曲。
原作者から全幅の信頼をえて本作を作りあげたのは、『スノーマンとスノードッグ』の監督ロジャー・メインウッド。声優陣は、母エセルに、『秘密と嘘』でカンヌ国際映画祭女優賞に輝いたブレンダ・ブレッシン。父アーネストに、『アイリス』『パディントン』などのアカデミー賞俳優ジム・ブロードベント。成長したレイモンドの声は『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』のルーク・トレッダウェイが担当。世界的作曲家カール・デイヴィスが手がけた、それぞれの時代を彩る多彩な音楽も魅力です。またエンディング曲を、ブリッグズの大ファンだというポール・マッカートニーが、自身の母への想いを込めて曲を書き下ろし、自ら歌い演奏しています。
1928年、ロンドン。貴婦人のメイドとして働く少し昔気質で生真面目なエセルはある日、陽気で楽天的な牛乳配達のアーネストと出会い、2年後に結婚。ロンドン郊外のウィンブルドン・パークに小さな家を25年ローンで購入する。大理石の柱に、鉄の門、風呂に水洗トイレまでついて、希望に満ちた新婚生活が始まる。
3年後、待望の息子レイモンドが誕生。その成長を見守る一家の幸せを、戦争の影が脅かす。しかしつらい日々の中にも、レイモンドが疎開先から送ってくる手紙や、つかの間の再会が、ふたりに喜びをもたらしてくれる。
ミュージックホールの入場料は5シリング
(今の6000円ほど)
手回しの脱水機
毒ガス攻撃に備え配られたマスク
1945年、終戦。レイモンドは、グラマースクールに合格し新しい制服も新調して、エセルは大喜びだ。しかし青年へと成長したレイモンドは美術の勉強をしたいと言いだし、両親をがっかりさせてしまう。50年代から60年代へと社会の変化は加速し、ブリッグズ家にも電話、冷蔵庫、TVなど多くの電化製品が登場する。1961年、レイモンドが独立し、ふたりだけの時間が訪れる。しかし、紅茶を飲みながら交わされる夫婦の会話は、日々の細事から政治、経済にまで及んで、楽しいおしゃべりには終わりがない。1969年、人類が月に偉大な一歩を記す頃、ふたりに老いが忍び寄っていた…。
庭に作られたシェルターで
イタリアのスクーター、ランブレッタを長髪で颯爽と
アポロ11号の月面着陸をTVで見るふたり
1934年1月18日、ロンドン、ウィンブルドン生まれ。英国で最も愛される作家・イラストレーターのひとり。文章のない子供向けの絵本「スノーマン」で最もよく知られ、同作は1982年にアニメ化されその後クリスマスの度にTV放映され続けている。2018年、出版から40周年を迎え記念コインがイギリスで発売された。 ウィンブルドン美術学校、ロンドン大学スレイド校で美術を学び、プロのイラストレーターとして初めて挿絵を担当した児童書が1958年に出版された。1961年から1986年までブライトン美術学校で教鞭をとる。1966年挿絵を担当した「マザーグース」が英国図書館協会のケイト・グリーナウェイ賞を受賞。1973年の「さむがりやのサンタ」で絵本作家デビューし、ケイト・グリーナウェイ賞を再び受賞した。1975年に「サンタのたのしいなつやすみ」、1977年に「いたずらボギーのファンガスくん」を発表。1978年に文章がなく、色鉛筆だけで描かれた絵本「スノーマン」を出版。ブリッグズは「2年間ファンガスを描いて、泥やスライム、言葉に埋もれていたので、文章のない清潔で楽しく、新鮮なものを短時間でつくりたいと思った」と語っている。 その後も、漫画のようなコマ割りスタイルの「ジェントルマンジム」(1980)、「風が吹くとき」(1982)、および「TheTin-Pot Foreign General and the Old Iron Woman」(1984)を発表。 英国図書館協会設立50周年には、「さむがりやのサンタ」が、英国の絵本ベスト10に選ばれている。1999年には「エセルとアーネスト」が英国ブックアワード最優秀イラストブックオブザイヤー賞を受賞した。2017年、エリザベス女王から大英帝国勲章を授与された。現在も、サセックスのウェストメストンにある小さな家で創作を続けている。
1953年カンタベリー生まれ。イギリスを代表するアニメーション監督のひとり。ロンドンのアニメーション・スタジオTVCで経験を積み、賞を受賞した映画の多くでアニメーターとして働いた。代表作にレイモンド・ブリッグズ原作の『スノーマン』(1982、ダイアン・ジャクソン、ジミー・ムラカミ監督)、『風が吹くとき』(1986、ジミー・ムラカミ監督)と 「さむがりやのサンタ」(1991、デイヴ・アンウィン演出)がある。ロジャーはビアトリクス・ポッター原作のTVシリーズ「2ひきのわるいねずみのおはなし」「まちねずみジョニーのおはなし」(1995)の監督を務め、「たのしい川辺」(1995、デイヴ・アンウィン演出)と「川辺にこがらし」(1996、デイヴ・アンウィン演出)のアニメーション監督を務めた。彼はまた、就学前の子供向けTVシリーズ「リトルプリンセス」(2006)のアニメーション監督でもあり、BBCコメディシリーズ「Stressed Eric」(1998)を監督し、英国アカデミー賞にノミネートされたTVシリーズ「MEG&MOGメグとモグ」(1995)のシリーズ監督や、ルーパス・フィルムズ制作の『スノーマンとスノードッグ』(2012)の監督を務めた。2018年9月24日65歳で惜しまれつつ死去。
「レイモンドが彼の家族の人生の映画化に同意してくれたのは、名誉なことでした。誰のための映画かとよく聞かれますが、レイモンド・ブリッグズのための映画だと即答しています。彼が出来栄えを喜んでくれて、嬉しく思います。今は、映画が自ら観客を見出すに違いないと確信しています」
映画やテレビ業界で25年以上のキャリアを持つクリエイティブ・プロデューサー。数多くのドキュメンタリーやアート番組を制作、監督した後、1999年に公共放送局チャンネル4の芸術音楽部門に入社。2002年に、友人であり同僚のルース・フィールディングとルーパス・フィルムズを設立。クオリティの高い映画と子供向けテレビ番組の制作を目指す。手がけた主な作品に『スノーマンとスノードッグ』(2012)、「きょうはみんなでクマがりだ」(2016)。現在、無人島に住み着いていた旧日本兵とその島に流れ着いた英国人少年との交流を描いたマイケル・モーパーゴ原作『ケイスケの王国』の長編映画化を準備中。
「レイモンド・ブリッグズと仕事をすることは大きな喜びであり、光栄なことです。とても個人的で感情に訴える物語ですが、一方で映画化は困難なものになるとわかっていました。でもレイモンドの全面的なサポートと応援に加え、1フレーム、1フレームに心血を注ぐ最高のスタッフを得ることができて、私たちは非常に幸運でした」
ナショナル・シアター、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー、オーケストラ、バレエ、TVシリーズなどに楽曲を提供する作曲家であり、指揮者としても知られる。TVには、「秘録:第二次世界大戦」(1980)、「Goodnight Mister Tom」(1998)、BBCの「高慢と偏見」(1995)、テムズ・テレビジョンの「Hollywood」(1980)などがある。また1927年製作のアベル・ガンスの『ナポレオン』に楽曲を提供したことで話題を集め、サイレント映画にあわせてオーケストラがライブ演奏する上映が世界的にブームとなった。 チャーリー・チャップリン、ハロルド・ロイド、そしてバスター・キートンの50以上のサイレント映画のための作曲を担当した。映画のサウンドトラックには『フランス軍中尉の女』(1981)、『チャンピオンズ』(1984)、『スキャンダル』(1989)、ケン・ラッセルの『レインボウ』(1989)、「華麗なるギャツビー」(TV映画2001)などがある。
1942年6月18日リヴァプール生まれ。父ジェームズは、セールスマン兼アマチュア・ジャズ・ミュージシャン。14歳の時に母が他界。15歳でジョン・レノンと運命的な出会いを果たし、1960年からザ・ビートルズとして活動。1970年に事実上解散するまでイギリスで12作のオリジナル・アルバムを発売し、内11作が全英アルバムチャートで1位を獲得した。ギネス世界記録に最も成功したグループ・アーティストと認定されている。ビートルズ解散後はポール・マッカートニー&ウイングスのメンバーまたはソロ・ミュージシャン名義で活動。デビューから半世紀以上が過ぎた現在も第一線で活躍を続けている。
舞台、テレビ、映画で幅広く活動し、マイク・リー監督の『秘密と嘘』(1996)ではカンヌ国際映画祭女優賞受賞のほか、ゴールデン・グローブ賞及びアカデミー賞にノミネートされたことで知られる。さらに『リトル・ヴォイス』(1998、マーク・ハマー監督)での演技によって、2度目のアカデミー賞にノミネートされた。『プライドと偏見』(2005、ジョー・ライト監督)では、英国アカデミー賞にノミネートされたほか、「Saving Grace(未)」(2000、ナイジェル・コール監督)ではゴールデン・グローブ賞にノミネートされ、数多くの演技が高く評価されている。 テレビにも数多く出演し、代表作に「アンネ・フランク」(2001、ロバート・ドーンヘルム監督)や「LAW&ORDER: 性犯罪特捜班」があり、共にプライムタイムエミー賞にノミネートされている。テレビ最新作として「ヴェラ~信念の女警部~」(2011~)の主役ヴェラ・スタンホープがあり、ITV製作の本シリーズは第7シーズンを迎えている。
「ジム・ブロードベントとの仕事は大好きです。以前仕事をしたことがありますが、また一緒に素晴らしいキャラクターを演じられて嬉しく思います。主人公たちは2つの戦争を生き抜きました。多くの点で私自身の両親の人生を思い出させます。エセルの外見も母にそっくりです」
アカデミー賞、英国アカデミー賞、エミー賞、ゴールデン・グローブ賞を受賞した名優で、映画『アイリス』(2001、リチャード・エア監督)で最も知られる。『ムーラン・ルージュ』(2001、バズ・ラーマン監督)では英国アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。国際的な人気を誇る『ハリー・ポッター』シリーズにも参加している。彼はまたメリル・ストリープと共演した『マーガレット・サッチャー鉄の女の涙』(2011、フィリダ・ロイド監督)で2011年、英国アカデミー賞にノミネートされた。最近作に、『パディントン』(2014、ポール・キング監督)、『ブルックリン』(2015、ジョン・クローリー監督)、『フィルス』(2013、ジョン・S・ベアード監督)、『ウィークエンドはパリで』(2013、ロジャー・ミッシェル監督)、『ミス・シェパードをお手本に』(2015、ニコラス・ハイトナー監督)、『ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期』(2016、シャロン・マグワイア監督)がある。
「ブリッグスの原作は素晴らしいアーティストによるとても美しい本で、本当に感動的です。全ての世代のための、誠実で、素晴らしいお話です。誰もが愛する作品です」
ロンドン・アカデミー・オブ・ミュージック・アンド・ドラマティック・アートで学んだルーク・トレッダウェイは、スカイ・アトランティック放送の人気シリーズ「Fortitude」の第2シーズンに続き、ベストセラー小説の映画化『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』(2016、ロジャー・スポティスウッド監督)に主演した注目の若手俳優である。
「大好きなレイモンド・ブリッグズの作品に参加できて光栄です。私は「スノーマン」と「いたずらボギーのファンガスくん」で育ちました。レイモンドは、この作品を、両親と彼らが過ごした人生へのラブレターとして描きました。美しい物語です」
実在の人物を描くからこそ、細部に徹底してこだわる。原作者ブリッグズの全面的な協力。
ロジャー・メインウッド監督ら全てのスタッフはブリッグズの物語と登場人物を正しく描かなければと大きな責任を感じていた。「実在の人物の人生を映画化し、本人やその両親をスクリーンで表現するのは、本当に気を遣うものです。ロジャーも私も、初めはとても不安でした」とプロデューサーのカミーラ・ディーキンは言う。「脚本とストーリーボードがレイモンドに承認されて、ほっとしました」。
エセルたちが散歩するウィンブルドン・パークのおしゃれなティールームの参考となる場所や、ふたりがデートする映画館の内装の参考になる映画館などを見つけるため、メインウッド監督と彼のチームは伝統的な建物や場所をあまねくリサーチした。ブリッグズはこう言う。「ロジャーは、細部を正しく理解することに細心の注意を払います。狂信的なほどです。彼は私よりも潔癖症ですよ!」。
ブリッグズは製作のすべての段階に関わり、監督のメインウッド、アート・ディレクターのロビン・ショウ、アニメーション監督のピーター・ドッドと何時間も打ち合わせ、セリフの一つ一つをチェックし、本、写真、装飾品、あらゆる資料を提供し、キャラクターの外見、動き、家の作りにいたるまで正確に再現することに協力した。
原作の“ルック”を再現するために、手描きアニメーションに新しい技術を導入。
制作チームは、手描きアニメーションによって、ブリッグズのニュアンス豊かなイラストレーションをでき得る限り忠実に再現しようと心を砕いた。しかし、本のページを生き生きとスクリーンに表現する方法を見つけるには、多くの時間が必要だった。
「最大の課題はその“ルック(映像の見栄え)”でした」とメインウッドは言う。アニメーション監督のピーター・ドッドは「原作とまったく同じに描くのは不可能です。すべてのフレームをクレヨンで描き、そのテクスチャーを再現しようとしたら、21世紀の終わりまでかかってしまいます。本を描くのに、レイモンドは約3年かけましたが、私たちには9ケ月しかないのです。しかし、時間を節約する新しい技術が見つかりました。それが、TVPaintというアニメーションソフトウェアです」と説明する。
TVPaintは、紙の上で手描きするのと同じように、PCスクリーンに直接描くことができる。「私たちは紙の上に鉛筆で描くのと見分けがつかない、様々なテクニックやブラシを開発しました。伝統的なやり方より、優れているのではないかと思います。モニター・スクリーンに描いて表れるものが、そのまま実際のスクリーンに映しだされるからです」。
エセルとアーネストの家にもこだわり。建物の正確な寸法と比率を再現。
エセルとアーネストが40年近く住んでいた家は、それ自体が登場人物のひとりと言える重要な存在だ。建物の正確な寸法と比率を再現するために、制作チームは家を3Dコンピュータモデルで作った。メインウッド監督は、玄関の段が何センチあるのかにもこだわった。責任者のサム・ライトは次のように説明する。「原作とレイモンドが描いた小さなスケッチを参照して、一から家を建てました。このリアルな素地があったので、シーンからシーンへ、家のさまざまな場所を通過すると、部屋の連続性と同時に、それぞれの部屋の違いを感じることができます。台所の先の玄関ホールにあるエセルの自転車を目にすることができるというような、ちょっとした偶然が、映画にリアリズムを与えるのです」。
家の内部は、ブリッグズが提供した写真や装飾品、当時の同じような建物を研究することで完成した。壁紙やテキスタイルは背景用に手描きし、床のタイルはプロデューサーのカミーラが住むエドワード7世時代の建築様式の家にあったものを参考にした。「映画を見るたびに、私の家の玄関のタイルを見ることになるのよ!」と彼女は笑う。
アート部門は、この映画のために、100個の水彩画見本、20個のテクスチャー見本、62個の敷物、壁紙やソファーのパターンなど、309の衣装、686個の背景、250の小道具を手描きで作成することとなった。
時代の音を集める。観客がすべてを自然に感じるサウンドワーク。
編集のリチャード・オーヴァーオールは、映画をリアルにする上で、音はきわめて重要だと説明する。「サウンドワークは非常に重要です。実際の音は何もないわけですからね。すべてを作り出し、加える必要があります。何もないところから始めて、観客が映画を見るとき、アニメーションには音がない、ということにまったく気づかないというのが理想です。キャラクターが現実に立てた音だと思われなければなりません。この映画の音のディテールには非常に高いレベルが求められました。この作品が時代ものであり、今では耳にすることのない音がたくさん含まれているからです」。 そこで音響チームは、牛乳配達車やスクーター、年代物の自動車やヴィンテージの二階建てバス、はては本物のスピットファイヤー機の音まで集めてきた。昔ながらの牛乳瓶の音さえも録音する必要があった。さらに、登場人物の足音も、家の様々な床材を反映するようにと慎重に録音された。「観客が気づかないくらい、すべてが本物でなければならないんです」。